転職日記2日目 これからどんな道を進むか
時計は0時をすぎた。
もうこんなことを書くのは何回目だろうと呆れてしまうのだけれど、今日もゲームとスマホを触っていたら1日が終わった。
土日は仕事のない開放感とは裏腹に、いつもつかみどころのない虚しさに襲われていた。
私には友達が少ない。
そうやってうまく立ち回れる人間ではないのだ。
いつも理由を探していた。例えば友達と遊ぶとする。
考える。なんで遊ぶんだろうと。
例えば、英語の勉強を始めようとする。
迷い始める。こんなことしたって、なにも変わりやしないんじゃないかと。
多分、本心ではやりたくないと思っているのだ。
あるいは不安なのか。
こういう迷いは転職活動をしていても感じる。
現職(もう数日で退職するかもしれない)ではプログラミングを仕事していたので、開発実務経験をいかして、そこそこ待遇のいい会社に転職しようと思って色々応募した。
内定ももらった。
実際、この動き方は悪くはないと思う。
給料もだいぶあがりそうだし(現職が低すぎるのだが)、次世代の必須教養と言われるプログラミングおよびITに関連する知識経験を積むことができた。
間違いなくプラスだ。
しかしどこかで、技術者として人生を進めていくことに
うまい表現がみつからないのだが、なんだか、気持ち悪い。そんな気持ちになる。
今まで技術などといったものから、かなり遠いところで人生を送っていたので単に違和感があるのかもしれない。
うーんわからない。
転職活動をこれから本格的にするんだから自分のやりたいことくらい明確にしておきたいものだ。私はとにかく、「決めて動く」ということがとてつもなく苦手なのである。
動いて失敗したくない。そうしてなにもせずただ時間だけがすぎる。
それが私の人生の大半だった。
そしてこれからも同じように過ごしていくのだろう、といい加減自分に期待することができなくなっている。
転職日記1日目
私は今このブログを勤務中に書いている。
暇なのだ。
最近はずっとこんな調子だ。
完全に社内ニートである。
「会社を辞めたい。」と取締役に伝えたらなんのプロジェクトにもアサインされずに放置されている。まあこれは当然と言うか、辞めると言っている社員に新たに仕事を渡すわけにはいかないとか考えているんだろうと思う。
ただ、それなら退職の話を前に進めてほしい。
なぜ放置するのだろう。「じゃあ明日社長も交えて面談をしよう。」と言ってきたのは
お前だろ。
しかしここで文句をぐだぐだ並べても、なにも変わらない。
俺たちは進まないといけない。
これから退職届を書いて、月曜日に提出する。
(追記)
これを書いた数十分後に取締役に呼ばれて話し合った。
なんだよ、このブログの購読者だったのか?
「単刀直入に聞くけど、なんで退職しようと思ったの?」
そう聞かれた。
私は前々から準備していた答えをそのまま伝えた。
精神的にやられているとか、エンジニアとしての人生に疑問を持っているとかそんなこ感じだ。
実際は給料がアホみたいに低いので転職したいだけだ。あと懇親会と社員旅行の幹事をやらされるのがゲロ吐くほど嫌だった。
来週月曜、社長と取締役と三人で面談すると言われたが本当に実現するのだろうか。
社長はなんか適当なところがあるので、信じられない。もしダメだったとしても、一方的に退職届を提出しよう。
春が来てしまった。
春だ。
別に今日急に春になったわけではないんだけど、特別新学期感があった。
今年も桜が咲いてきたから、「春だ。」ってインスタかツイッターかなんかで呟こうと思っていたのに結局ここまで引き伸ばしてしまった。
新学期といえば、クラス替えだ。仲の良い友達と一緒だろうか、担任は誰なのか、まさかあの口うるさいババアのクラスにはなってないだろうか、気になるあの子と一緒にはならないだろうか。そんなことを考えながら俺たちは高校に向かって自転車を走らせたのだ。
そして大抵のクラス替えは思うようにはいかなかった。
大学の入学式のことはあんまり覚えていないけれど、初めてスーツを着てウキウキしていた時のことは記憶に残っている。
そしてクラス替えの恐怖からは解放された。
大学を卒業してから、随分と考えごとをするようになった。ひどいときには早朝に起床してから部屋の隅っこで一日中考えていた。
最近いつも遊んでいる友達に
なんだか生きている実感がないんだよね、と言った。
そうすると
「どんなときに生きてることを感じるの?」と聞かれた。俺は少し間を置いた後、こういうことを考えてないときかな。などと答えた。
俺はその後の帰りの電車で生きていることについてひとしきり考え、結局結論は出なかった。
その日は久しぶりに暖かい日だった。
そういえば新元号が発表された。令和という元号になるらしい。(漢字これだっけ)
結構気に入っている。
黒ずくめの男に後頭部殴られた話
急に世界は暗転した。一瞬、後頭部に激痛が走ったように感じたが、数秒後にはどうでもよくなっていた。
朦朧とした意識の中で自分に明らかな殺意が向けられていることがわかった。そして、彼らの会話を聞くに、それは「組織」の開発した毒薬によって実行されるようだった。彼らは俺の口を開かせ、カプセルを雑に流し込んだ。
身体も、頭も、ほとんど動かなかった。
彼らはたち去り際になにか捨て台詞を残して言ったようだったが、俺の耳はもうほとんど機能していなかった。
身体が、熱い。
****
俺はなぜか砂漠をただ歩いていた。目の前にはまっさらな砂と空だけが広がっていた。ただそれだけだった。意味不明だと思った。この空間が現実の世界でないことはすぐに察しがついた。
眩しいくらいに陽が照っているのに、全くと言っていいほど気温を感じない。足を進めても、砂を踏んでいる感覚もなかった。それに、輪郭のあることほとんど考えられなかった。砂漠から抜け出さなきゃいけない、とだけ思っていた。俺は機械的に前に進んだ。いや、俺はもしかしたら後ろにすすんでるのかもしれなかった。もうどの方向から歩いて来たのかも分からなくなっていた。時々後ろを振り返ったが足跡は残っていなかった。
目の前の砂漠と曖昧な思考が同化して、次第に周りがみえなくなった。そんな時この文脈に関係のないフランツカフカの「変身」のことが頭に浮かんだ。本当にそのことが、不意に浮かんだのだ。
カフカの「変身」はかなり前に一度だけ読んだ本だった。「変身」は主人公のグレゴールが朝目覚めたとき、自分が巨大な虫になってしまったことに気づいたところから始まる。グレゴールは突然なことに戸惑うが次第に状況になれてくるとベッドの中で自分の仕事に対する不満を思ったりする。その後たしか家族に自分の姿を曝け出して母親の腰を抜かせる、ことになるのだがその先の内容は覚えていない。
というより、その先は読んでいないのだ。なぜ中途半端に読むのを辞めたのか、その理由さえ思い出せない。
「変身」の続きを、自分の想像で補完して考えるのが好きだった。最初は、いわゆる「カエルの王様」みたいなハッピーエンドを想像した。だけど、そんな誰もが思いつくような物語なわけがないと思った。だから虫として生きることを決意したグレゴールや毎日違う生き物に変わってしまうグレゴールを想像したりした。
またある時は感染症みたいに虫に「変身」してしまう人が増えていく、という地獄のような想像もしたことがある。
どれもカフカが書きそうな筋の物語には思えなかった。実際、俺が考えたのは幼稚な背景設定だったが、それをうまいことカフカ風に言語化するのが楽しかった。これを毎晩寝る時、目を閉じてから習慣的に行なっていた。それが理由なのか自分でもわからなかったが、俺は「変身」の続きを読もうとしなかった。
時折、朝目覚めたとき、自分の手や顔が細かくてぐちゃぐちゃした気持ち悪い造形になっていたらどうしようと不安になったりした。
そのうち、高校に入学してからだっただろうか。俺は探偵稼業に夢中になった。新たな友人も出来た。気づけば「変身」やグレゴールのことは、まるでジンジャエールから抜けていく炭酸ガスみたいに俺の意識からすっかりなくなってしまっていた。
このまま死んでしまうなら、親父の本棚から「変身」を見つけてさっさと続きを読んでしまえば良かったと、心底やるせない気持ちになった。
****
相変わらず砂漠からは抜けられそうになかった。随分あるいたような気がしたが、景色は少しでも変わったように思えなかった。この世界には砂漠以外は存在しないのでは?ととさえ思った。しかしその疑問を解消する方法は思いつかなかった。だから俺はただ歩いた。分からないから歩くしかなかったのだ。
楽感的な気持ちにも憂鬱な気持ちにもならなかった。しばらく、足を動かし続けると俺はこの砂漠の世界から抜けられそうだとなんとなく感じた。いつも睡眠から覚醒するときに感じている、あの感覚だ。
確か黒ずくめのやつに毒薬を飲まされたのを覚えている。だからおそらく、毒がまわってきたのだろうと思った。この感覚の後におそらくおれは死ぬのだ。こんなところで死んでしまうのは悔しい気持ちもある。けれど、もうどうでもよかった。ある種前向きにこの状況を諦めていた。笑いさえ込み上げてきた。考えてもしょうがないと思った。
それに、この自分の意識が全くの無になってしまうなんて想像出来なかった。死後の世界を信じたことは一度もなかったが、この自我を保ったまま、またどこかへ行けそうだったのだ。それに実際、そのときはやってきた。
「おーい!ちょっと来てくれ!誰か死んでるぞ!」
やはり俺は死んでしまっていたのか。男の声と、デジタルでポップな音楽が遠くで流れてるのが聞こえた。同時に、無限に続くとさえ思われた砂漠は瞬く間にその姿を消して、視界は暗闇に覆われた。
音が聞こえてくると、五感すべてが勢いよく回復するのを感じた。頭がかち割れるほどの激痛を感じた。そして血の味と匂いがして、身体は気だるい感じがして、ほとんど動かせなかったが、なぜかまるで重さがなくなったみたいに軽かった。
目の前にいると思われる男はさらにこう続けた。
「いや、まだ息はある!救急車だ!救急車を呼べ!」
生きてる、、、?
目を開くと何人かの警官が懐中電灯の光をこっちに向けてるのがわかった。
「おいしっかりしろ。大丈夫か?」
生きてる。生きてるぞ!あの薬は人間には効かなかったんだ。ざまあ見やがれ。あの黒ずくめの悪事を、みんなバラしてやる!
しかしそれにしても、身体のようすがおかしくないか?こんなに洋服ダボダボだったか、、?
この疑惑は俺にまたグレゴールのことを思い出させた。自分の身体が虫になってないことだけ確認して、俺はふうっと息を吐いた。
さっきまで着ていた服が明らかに大きく思えること、この感覚、薬を飲まされ骨が溶けるような熱さを感じたこと、これらの要素が俺の中である1つの結論を導こうとしていた。幸いにも、というべきなのか、血の気が引いていくのを感じた。
「立てるか?ボウヤ?」
警官は穏やかに、ゆっくり、言葉を発した。彼は精一杯笑って見せたがその一連の動作が俺をいっそう不安にさせた。